
はじめに
超低金利の環境が続く中、個人向け国債は根強い人気があります。預貯金に比べて高い金利がつくほか、中途換金もしやすく、元本割れがないことなどがその主な理由でしょう。また証券各社がボーナスシーズンなどに合わせ、個人向け国債の購入時に現金やポイントを付与するキャンペーンを実施していることもあり、発行額は毎年増加傾向にあります。
コロナ渦で株式バブルとも言われる株高の中、今から株に投資をすることをためらい、とりあえず資金の置き場所として、個人向け国債の購入を検討されている方も多いと思います。確かに元本保証でインフレにも対応できる金融商品をお探しであれば、個人向け国債は選択肢の一つではあります。しかし、私はこの商品で資産運用をすることには反対です。この記事では、個人向け国債の不都合な真実を暴き、なぜこれを買うべきでないのかを解説します。
個人向け国債の特徴
元本が保証されている金融商品
「個人向け国債」は、日本国債の個人の保有を促進させるために2003年に発行されました。半年ごとに利子が支払われ、満期になると元本が満額戻ってくる仕組みです。主に機関投資家が市場で売買する日本国債は、価格変動があり売却時に損益が発生するのですが、この個人向け国債は途中で換金しても元本が保障されているのでリスクはありません。
金利はメガバンクの定期預金の25倍!
個人向け国債の最低利率は0.05%と決められています。これ以上下がることはありませんので、超低金利時代でもこの金利は最低限保障されています。一方現在の3大メガバンクの定期預金の金利は年0.002%。(2021年3月29日現在)3行揃って仲良く横並びです。この数字だけを比較すると、「個人向け国債の金利はメガバンクの定期預金の金利の25倍」と表現することができ、それだけ聞くとかなり有利な金融商品だとだと感じられるはずです。
いつでも購入と売却が可能
個人向け国債には、固定金利の3年債と5年債、変動金利の10年債の3種類があり、このどれもが毎月発行されているので、いつでも買うことができます。ちなみに購入単位は最低1万円から1万円単位となっています。1年以上経過すると満期を迎える前に換金もできますが、手数料として直前2回分の利子は差し引かれるので、購入後1年経過すれば、いつでも元本以上の金額で解約できるという仕組みです。
「経営破綻する可能性のある民間の銀行より、最も安全とされる政府の保障がついていて、金利がなんとメガバンクの25倍以上。変動10年型を買えば、景気回復時には金利も連動して上昇し、インフレ対策にもなる。更に購入後1年経過すれば、いつでも売却可能」
たしかに文章で説明すると「その通り!」なのですが、国債の購入前に知っておくべきことがいくつかあります。
次の章では、それらについて詳しくご紹介していきます。
なぜ個人向け国債は買ってはいけないのか?
個人向け国債は定期預金よりも金利が高く、国の元本保証付きで途中解約のペナルティーもありません。しかも日本全国のほとんどの金融機関で買えるので、銀行の定期預金にお金を預けるよりは、個人向け国債で運用をすべきだと考えることは自然なことです。しかし私は、個人向け国債の購入はおすすめいたしません。以下にその理由を挙げましょう。尚ここから先は話をシンプルにするために、変動10年債を購入するという前提で進めます。
表面利率が低すぎて、投資商品としては魅力が薄い
まずは、個人向け国債の現在の表面利率が低すぎるという理由です。現在売り出されている変動タイプの表面利率は0.09%。これは2021年3月現在において、メガバンクの定期預金の45倍という金利です。では実際に購入したらどのくらいの利息がもらえるのでしょうか?
今あなたの手元に運用資金が1,000万円あるとします。これをすべて個人向け国債の変動10年型で運用してみましょう。金利は将来どうなるかわかりませんが、とりあえずそのまま据え置きとします。
さて、1年後に受け取れる利息ですが、9,000円です。しかもこの9,000円には税金がかかり、税引き後の手取り利益は7,170円まで下がってしまいます。いかがでしょうか?これを1,000万円の運用益としてもらって喜ぶ人が、世の中にどのくらいいるのでしょうか。いくら国債の金利が銀行の定期預金より優遇されていると言っても、実際はこんなものなのです。
更に、個人向け国債は最初の1年間は原則換金できません。後述するハイパーインフレが1年以内に起こってしまった場合には、お金の価値がどんどん下がっていくのを、指をくわえて見ているしかありません。ちなみに、インフレが起こった際には個人向け国債の金利も見直されますが、見直しは半年に一度です。インフレスピードが急速な場合には、見直しのタイミングがそのスピードについていけない仕組みは、致命的だと言えます。
個人向け国債は単利の金融商品
「リスクは全く取りたくないが、少しでも有利な運用先を選びたい」というのであれば、個人向け国債は優秀な商品です。それでもこの商品が決定的に魅力に欠けると思うのは、これが単利での運用商品という点です。資産運用の基本は複利運用。資産を増やすにあたり、これに勝るものはありません。
一方、積み立てで投資信託を買う場合などは、基本的に運用は複利になります。元本に利息が組み入れられてより膨らんだ元本に対して、更に利息が付いていく。もちろん投資信託は値動きがありますが、リスクを取らなければリターンもないのが投資です。
今後利率が大きく上がる可能性は限りなく低い
先ほどのシミュレーションでは、個人向け国債の金利を0.09%で計算しましたが、これは変動10年型で運用したケースです。この先景気が良くなれば、金利もどんどん上がっていくはずです。しかし現実的にそれが実現することは、極めて難しいと私は考えています。
個人向け国債の金利の基になるものは、金融市場で取引きされる長期国債の金利なのですが、現在それは日銀の異次元の規制緩和により、意図的にかなり下げられています。そして政府が発行した金利が低い国債を大量に買い取っているのは日銀です。2021年現在、日銀は政府発行の長期国債の約50%を保有しています。もしここで景気が良くなり、日銀が国債の金利を上げ始めたら一体どうなるのでしょうか?
金利が上がると、債券の価格は下がります。日銀が長期金利を上げれば、自らが保有する国債の価格が下がるということです。要するに、日銀が長期金利を上げれば上げるほど、自らが保有する国債の価格が下がり、日銀の資産の評価損が膨らんでいくということになります。自分の首をしめるような政策を、日銀は行うことができるのでしょうか?このように考えれば、日銀は長期金利をこれからもずっと低いままで抑え込もうとするのではないでしょうか。
〈ご参考〉
金利と債券価格の関係を誰よりもわかりやすく解説する
第135回事業年度(令和元年度)決算等について(日本銀行)
膨らみすぎた政府の負債の先送りが、将来の金融危機につながる
私は現在の日本の行き過ぎた日銀の金融緩和や政府の金融政策には、潜在的な大きなリスクがあると思っています。それは、金融緩和の後の出口がどこにもないからです。
そもそも国の収入が税収だけで完全に賄われていれば、国債をわざわざ発行する必要すらありません。しかし日本の国債の発行額は、毎年増加を続けています。税収に対して支出が多すぎるので、国債を発行して借金をし、その穴埋めをするしか方法がないのです。
ちなみに、国債(債権)は期限があり、満期を迎えると償還されます。借りたお金は返さなければなりません。しかし現実には、日本政府にはその借金を返すお金もないのです。そこで、満期を迎えた国債をそのまま借り換えることによって、この困難を乗り切っています。
要するに政府の借金は全く減らずに返済期間を引き延ばしながら、新たな借金を毎年積み重ねている、これが現実です。ではこのお金を一体誰が返すのかというと、将来の世代が税金や社会保障の縮小によって負担することになります。しかし、将来ちょっとやそっと税率を上げたくらいでは、この借金は返すことができないほど膨らんでしまっています。
ところで、日本政府の借金は約1,100兆円。毎年の税収は60兆円程ですが、これでは全く足りないので、平均すると毎年30-40兆円の国債を発行して財政を賄っています。この膨れ上がってしまった借金を返す方法の一つは、毎年の国家予算予算を50兆円と今の半分以下にして、税収との差額を10兆円ほど捻出し、コツコツ返済にまわすことぐらいでしょうか。しかし仮にこんなことができたとしても、毎年10兆円の返済では、完済までに約110年間もかかる計算になります。そもそも税収はキープしながら国家予算を現在の半分にするような事など、できると思いますか?
この問題の一番現実的な解決方法があるとすれば、それはハイパーインフレを起こしてお金の価値を下げ、借金を帳消しにすることだと思います。これを過激すぎる思想だと批判する人もいるのですが、私はこのシナリオは十分に起こり得ると思っています。言葉を変えれば、日本の財政問題はこの方法でしか解決ができないと思っています。
少し大げさかもしれませんが、個人向け国債を買うということは、日本政府の膨らみ続ける借金を許容し、この政策に加担していることにもなるわけです。そして、万一ハイパーインフレにでもなったら、円や国債は価値を失い、紙くず同然となってしまうのです。これが私が個人向け国債をおすすめしない最大の理由です。
おわりに
なぜ個人向け国債はキャンペーンで売られるのか?
ここまで理解した上で、それでも個人向け国債を購入する場合、最後にもう一つ留意をしていただきたいことがあります。それは個人向け国債が、他の手数料の高い金融商品のフロントとして扱われているという現状です。
個人向け国債は銀行などの窓口でキャンペーンとして売られることが多いのには、それなりの理由があります。ボーナスシーズンなどに合わせ証券各社が購入時に現金やポイントを付与するキャンペーンを実施していることが多くありますが、これは一体なぜでしょうか?
個人向け国債は1年以上保有すると、元本割れをしないで解約ができるという特徴があります。そこに目を付けた金融機関が、まずはその安全性を理由に個人向け国債を売り、1年後に解約できるタイミングで、顧客に別商品の乗り換えを勧めることがあるようです。
「あなたの保有する国債が換金できるようになりました。つきましてはもっと有利な・・・」などと持ちかけ、別の手数料の高い料金に乗り換えさせるのです。
これを読んでいる皆さんは、決して金融機関の「カモ」にはならないで頂きたいと思います。
以上、個人向け国債を買うべきでない理由を上げました。ご参考になれば幸いです。
Advisor

1973年生まれ。
本業は外資系金融会社のITエンジニア。
他に投資家、コンサルタント、セミナー講師、執筆活動など、複数のパラレルキャリアを構築し、日々の活動を営んでいる。
ビジネスマンがより自由に安心して暮らしていけるための考え方や、ファイナンシャルアドバイスを含む総合的なアドバイスを行う。
得意分野は、金融資産運用、海外証券投資、不動産投資、合法民泊経営、サラリーマン節税、クレジットカード運用など幅広く、自身の実体験を惜しみなくさらけ出したブログには根強いファンが多い。
現在は本業と平行して、執筆活動、自己実現セミナーやワークショップを開催。個人向けの各種コンサルティングサービスも人気を博している。
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