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サラリーマンが築古木造を購入すると節税できるのか?(5)

結局その日は資料を持ち帰り、詳細は自宅で検討することにしてMS社を後にした。
投資面談だけをするだけのつもりで来たのに、実際に物件まで紹介されてしまった。
しかも5棟まとまっていて投資額もかなりのボリュームの案件だなんて、全くの想定外だ。

帰り際、A氏は俺に釘を刺すかのようにこう付け加えた。

「紺野さんのために、こちらの物件は他に出さないようブロックしておきますね。しかしすぐに売れてしまう優良物件ですから、購入のご決断は早めにお願いします」

まるで、「こんなに良い物件をあなたに特別に紹介しているのだから、まさか買わないなんて言わないよね?」
そんな無言の圧力をかけられている気がしたが、俺は笑ってやり過ごすことしかできなかった。
どちらにしても、今ボールはこちら側にある。これからお互いに良好な関係を保っていくためにも、早めににA氏には結論を伝えねばならない。

問題は利回りと金利のバランスだ。
耐用年数が切れた木造アパートで、わずか8%の利回り。ギリギリ首都圏に入るかどうかという微妙な場所で、この数字だ。
大規模修繕が行われた直後とは言え、ここできちんと考えないで結論を出すのは、よほどの金持ちかお馬鹿さんかのどちらかだ。
そもそもこの利回りなのに金利が3%以上で、本当に投資として成り立つのだろうか?
俺はスルガの4.5%にあれほど苦しんだのではなかったか?
投資の目的は以前とは違い、本業と民泊で稼いだお金の節税だけれど、この案件は正直自分の心の中で直感的に納得のいくものではなかった。

次の週末、俺はすべての予定をキャンセルしその物件を見に出かけた。
自宅から車で20分程の場所にある、駅からも徒歩10分圏内のファミリー物件だ。
周りの住環境も悪くはない。徒歩3分の場所に巨大なドンキもある。
そしてここを見に来てから気がついたのだが、このエリアはかつて何度か来たことがあるなじみの場所だった。
正確な住所は覚えていないけれど、学生時代に付き合っていた彼女の実家は、すぐそこにあったはずだ。

物件自体はきれいだった。静かな住宅地の中に、黒色で塗りたくられたアパートが5棟、少し周囲から浮いた感じだが、堂々とたたずんでいた。
敷地も広い。駐車場も十分なスペースがある。敷地内に目立ったゴミなどはなく、よく手入れもされていた。周りのアパートと比べても遜色ない。しかもここは5棟満室だ。悪くはない。
土地値が高いから、物件の評価額が低くても、トータルでこの金額なのかもしれない。

「物件としては全然アリじゃね?」
俺はそう思った。
付き合っていた彼女は、ここから東京の西側の大学まで、電車で片道2時間以上をかけて通っていた。
彼女が夜遅く帰っても俺が心配せずにすんだのは、付近の治安が悪くないのを知っていからだ。
全く知らない場所ではないところに投資するのは、安心材料の一つになったのは間違いなかった。

物件の立地や環境をクリアしても、やはり気になるのは収支予測だ。
利回り8%の物件をこの金利で借りると、30年の長期での返済だとしても年間のキャッシュフローは出るか出ないかのギリギリだ。空室が予測より少しでも増えると、マイナスに転落するかもしれない。そう考えるとこの物件に手を出すべきではないと思った。

しかし一方で俺の投資目的は、あくまでも本業と民泊業で得た利益の節税なのだから、キャッシュフローは節税後の税金を加味して考えるべきだというA氏の話も頭から離れなかった。A氏と同じ説明を、MS社の社長の著者でも何度も読み、その投資セオリーはすでに俺の頭には入っているからだまされているわけでもない。
確かに建物分の減価償却を大きく取れば、節税効果だけで数百万の税金の還付にはなる。たとえキャッシュフローが赤字でも、それにより税金の還付が増えるのであれば、この投資ははありだ。そう、不動産は何を買うかではなく誰から買うかなのだ。俺は無意識のうちに、買わない理由ではなく買うべき理由だけを探しはじめていた。

どんな投資にだってリスクはある。今までも苦労しながらなんとかここまでやって成功してきた。今度もきっと大丈夫だ。運命の女神はいつだって俺のそばにいる。
そして翌日俺は購入申込書にサインをして、MS社にメールで送付した。

きちんと考えないで結論を急いだお馬鹿さんとは、俺のことだったのかもしれない。

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